20年9月:トーカロ株式会社未払賃金等請求事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ

今回のメルマガ【2020年9月号】目次

1 (労務×有期社員×同一労働同一賃金×賃金格差)

  有期契約社員と無期契約社員の賃金格差が、改正前の労働契約法20条に違反するとして提起された労働契約による賃金請求権、不法行為に基づく損害賠償請求権が否定された例

労働契約による賃金請求権、不法行為に基づく損害賠償請求権が否定された例



【判例】

 

事件名:トーカロ事件(東京地裁)

判決日:東京地判令和2年5月20日

 



【事案の概要】

 

被告は、金属等の表面処理加工等を目的とする株式会社である。

原告は、平成8年12月2日,被告との間で期間を平成9年12月1日までとする労働契約を締結し,以後21回にわたり,平成30年11月30日まで継続的に契約を更新した。

 

原告は、期間の定めのない労働契約を締結した正社員と業務の内容等が同一であったにもかかわらず,基本給及び賞与が正社員よりも低額であり,地域手当を支給されなかったことが平成30年法律第71号による改正前の労働契約法20条に違反するとして,

 

被告に対し,

・不法行為による損害賠償請求、

・労働契約に基づく賃金支払い請求

 

を行った事案である。



【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】 

 

1 原告の比較対象とすべき正社員

 

(1) 判断枠組み

 

 「有期契約労働者が選択して主張した比較対象とすべき無期契約労働者について,

 

  労働条件の相違が異なる人事制度そのもの又はその定型的・類型的な運用

によって生じているのか,

  個々の人事評価の相違

によって生じているか

をみた上で,少なくとも,

  労働条件の相違が異なる人事制度そのもの又はその定型的・類型的な運用

 

によって生じている部分については,

 

・当該人事制度が適用される無期契約労働者のうち

・職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が一定程度共通する範囲の者

 

を比較対象とすべき無期契約労働者とするのが相当である。

 

(2) 当てはめ

 

 「原告が比較対象とすべき正社員として主張するq11ら4名はAコース正社員であった者であり,原告が違法と主張する同人ら4名と原告との間で相違する労働条件の基本給,賞与及び地域手当は,いずれも,正社員に対する給付額は人事制度に基づいて規定され,同制度の運用の結果として定期昇給がされ,賞与の支給額が決定され,地域手当が関東地区の正社員に対して一律支給されていたのに対し,嘱託社員に対する給与は労働契約時の個別合意により決定され,定期昇給も予定されておらず,地域手当は一切支給されていなかった。このように,

 

  正社員と嘱託社員では異なる人事制度

が採用されており,その結果として原告主張の各労働条件の相違が生じている

 

反面,q11ら4名の個別の人事評価等によって嘱託社員である原告との間に各労働条件の相違が生じていることを認めるに足りる証拠はない。以上のとおり,本件においては,異なる人事制度によって労働条件の相違が生じていることに照らし,

 

比較対象とすべき正社員は,

・上記労働条件の相違を生じさせる人事制度が適用される正社員のうち

・職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が一定程度共通する範囲の者

 

とするのが相当である。」

 

 「以上を前提に本件で比較対象とすべき正社員の範囲を検討するに,前記認定事実によれば,

 

原告を含む嘱託社員は,

中核業務以外の業務を担当するものとされ,

役職への就任及び管理職への昇任は予定されておらず,

合意によらない一方的な異動は予定されていないものと認められ,

当業務や異動等の範囲が限定されている。」

 

 「これに対し,被告の正社員は,採用時にDコース又はAコースに区分され,一定の要件を満たした場合には入社後にコースを変更することが可能であるものの,コース変更は正社員が希望した場合に限られ,人事異動によるコース変更は予定されていない。そして,Dコース正社員は,業務内容に限定がなく,職能資格等級の上昇に伴う役職への就任及び管理職への昇任が予定されており,転勤又は配置転換を命じられることもあるのに対し,

 

Aコース正社員は,

定型的,限定的な業務を担当するものとされ,

役職への就任及び管理職への昇任は予定されておらず,

転勤を命じられることもない

 

とされている。」 「そうすると,

 

原告を含む嘱託社員と労働条件を比較すべき正社員は,

・担当業務や異動等の範囲が限定されている点で類似するAコース正社員

 

とするのが相当である。」

 

2 労働条件の相違の不合理性

 

(1) 基本給

 

 「Aコース正社員の基本給は本人給及び職能給により構成され」ている。「本人給については50歳に達するまで,職能給については55歳に達するまで,毎年定期昇給するものと」なっている。「これに対し,嘱託社員の給与は,採用の目的等を勘案して個別に決定するものとされ,毎年定期昇給する旨の内規もなく,Aコース正社員との間に賃金体系の相違がある。」

 「しかしながら,

 

無期契約労働者に支給される

  本人給は生活給的性格のもの

であり,

  職能給は割り当てられた職務の複雑さ及び責任の度合並びに本人の勤務成績及び保有能力に応じ決定されるもの

である。このような本人給及び職能給からなるAコース正社員の賃金体系は,長期間の雇用が制度上予定され,雇用期間を通じた能力及び役割の向上が期待されているAコース正社員について,

 

  年齢に応じた処遇により長期雇用に対する動機付けを図る

とともに,

  能力等に応じた処遇により意欲,能力等の向上を促すもの

ということができる。

 

他方,嘱託社員は,

  長期間の雇用が制度上予定されておらず

  期待される能力や役割もAコース正社員より限定的である

から,

 

上記賃金体系を採用することなく,

契約期間ごとの合意によって基本給の額を決定することに

一定の合理性がある。

 

 「そして、Aコース正社員と嘱託社員との間には,

  担当業務の範囲,期待される能力や役割,職務の内容及び配置の変更の範囲に」「一定の相違があること」

  「長期雇用を前提とする無期契約労働者と短期雇用を前提とする有期契約労働者との間に異なる賃金体系を設けることには,企業の人事上の施策として一定の合理性があること」

  「被告においては有期雇用社員の正社員への登用制度が存在し,平成19年度から平成29年度までに被告に採用された正社員338名のうち約22.5パーセントに当たる76名が有期雇用社員から登用されるなど,同制度が実際にも機能しており,嘱託社員には同制度によって正社員との相違を解消する機会が与えられていること」

 

などの事情を総合考慮すれば,

 

Aコース正社員と嘱託社員との間の基本給についての相違は,不合理であると評価することはできない

 

というべきである。」



(2)賞与

 

「Aコース正社員に対する賞与は,各人の業績及び勤務態度を勘案の上,毎年7月及び12月に支給するものとされており,平成27年から平成29年までの各年にAコース正社員に支給された賞与を平均すると,年間の支給額は基本給の約6.2か月分であった。これに対し,嘱託社員に対する賞与は,採用の目的等を勘案して個別に決定するものとされ,また,原告の同期間における賞与額は,いずれも基本給の3か月分と合意されており,Aコース正社員と嘱託社員との間には,賞与の支給基準及び請求対象期間である平成27年から平成29年までにおける実際の支給額に一定の相違がある。

 

賞与は,月例賃金とは別に支給される一時金であり,

 

・労務の対価の後払い,

・功労報償,

・生活費の補助,

・労働者の意欲向上

等の多様な趣旨を含み得るものである上,

・労使交渉において基本給を増額する代わりに賞与額を増額することもままみられるなど,基本給と密接に関連する位置付けのもの

 

である。」

「Aコース正社員と嘱託社員との間には,

 

  職務内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があること,

  長期間の雇用が制度上予定され,雇用期間を通じた能力及び役割の向上が期待されているAコース正社員に対し,賞与額を手厚くして優秀な人材の獲得や定着を図ることは,人事上の施策として一定の合理性があること,

  Aコース正社員は,年度中に被告の業績が悪化した場合,賞与を不支給とされ又は嘱託社員よりも低額とされる可能性があり,嘱託社員の賞与に係る労働条件がAコース正社員に比して一方的に劣位にあるとは必ずしもいえないこと,

  嘱託社員には正社員への登用制度により正社員との相違を解消する機会が与えられていること

 

などの事情を総合すれば,

 

Aコース正社員と原告を含む嘱託社員との間における賞与の相違は,不合理であると評価することはできない。」

 

(3)地域手当

 

 「関東地区に在住するAコース正社員に支給されていた地域手当は,平成元年頃,労働者の需要が高まり,かつ,関東地区の家賃相場が他の地区より高額であったにもかかわらず,正社員の初任給の額を全国一律としていたことなどから,関東地区に勤務する正社員を確保することが困難であったため,将来に向けて安定的に正社員を確保する目的で導入されたものである。そうすると,地域手当は,初任給の額が全国一律であるという正社員固有の賃金制度に由来する問題を解消するための手当ということができる。

 

これに対し,嘱託社員の賃金は,採用の目的等を勘案して個別決定され,家賃の高さその他の各嘱託社員の居住地域固有の事情を考慮して,採用した地区ごとに賃金額を決定することも可能である上,転勤も予定されていないことに照らせば,嘱託社員には,初任給額が全国一律であることから生じた関東地区における正社員の安定的確保という地域手当の支給に係る事情は妥当しない。」

 

「Aコース正社員と嘱託社員との間における地域手当の相違は,不合理であると評価することはできない。」

 

以上から、「原告の主張する労働条件の相違は,いずれも不合理であると評価することはできず,労契法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たらない。」

 

 

【結論】

 

 原告が主張する賃金の格差は旧労契法20条における不合理な差別とはいえない。したがって、不法行為に基づく損害賠償請求や、労働契約に基づく賃金支払い請求が認められなかった。

 

 

【コメント】

 

本件は、近時、争点になりやすい基本給及び賞与に関する旧労契法20条の解釈について、使用者に有利な判断を行った裁判例です。賞与については、賞与支給の趣旨を多義的なものとした上で、使用者勝訴としている点に注目すべきです。

ただ、賞与については、「有期社員にも賞与を一定額支給している」事案ですので、この点は、注意すべきです。

 

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