20年2月:弁護士法人A法律事務所事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ

今回のメルマガ【2020年2月号】目次

 (労務×法律事務所×中途採用×解雇)

即戦力として中途採用された労働者に対する解雇が有効とされた事例

(弁護士法人A法律事務所事件:東京地裁令和1年5月31日)


【判例】

 

事件名:弁護士法人A法律事務所事件

判決日:東京地裁令和1年5月31日

  

【事案の概要】

 

本件は、被告弁護士法人との間で労働契約を締結していた原告が、

ア、被告から違法に降格及び解雇をされたと主張して、労働契約に基づき、労働(雇用)契約上の地位を有すること、被告情報システム室システム開発グループグループ長の地位にあることの確認

イ、労働契約に基づく未払賃金等請求として当該期間の未払給与、月額給与及び賞与並びに遅延損害金の支払、

ウ、時間外労働を行ったとして、労働契約に基づく割増賃金及び遅延損害金の支払

を求めた事案です。

 

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。)】<下線部は、当事務所が加筆>

 

1 本件解雇の有効性について

「本件労働契約締結当時,被告では,本件システムのマイグレーションの必要性があったこと等から,即戦力となる人材の中途採用を行うこととし,求人情報にもその旨記載し,原告を含む応募者との面接においても,システム開発部門の部門責任者というプレイングマネージャーを募集しており,採用後の重要な業務の一つに本件システムのマイグレーションがあること等を説明している。・・・本件労働契約上,原告には,即戦力たるプレイングマネージャーとして,マネージング能力,プログラミング能力及び教育指導能力が求められていたものといえる。・・・原告は,本件労働契約で求められた即戦力としての各種能力を有していなかったものと言えるところ,これらの能力が期待された背景には,原告のこれまでの職歴が存在するのであるから,短期間の教育訓練等によって一朝一夕に期待された水準の能力を身につけることができるといった性質のものではなく,また,法律事務所という被告の業態の特殊性からすれば,即戦力のプレイングマネージャーとしてシステム関係部署において雇用された原告について他部署での雇用継続も事実上困難であると言わざるを得ない。したがって,被告がこれらの対応をしなかったとしても,本件解雇との有効性に何ら影響を与えるものではない。・・・そうすると,本件解雇には客観的合理性があり,かつ,社会通念上も相当であると評価できるから,本件解雇は有効である。・・・。」

 
2 本件降格の有効性について


 「本件において提出された全証拠によっても,グループ長が職能資格制度における職能資格を意味するものとは認められず,むしろ,本件労働契約上,開発グループのグループ長であるか否かによって原告の賃金が変動するものではないこと,被告の就業規則上もグループ長の地位と賃金との関係を示す規定が存在しないことからすれば,グループ長は被告内の役職ないし職位を意味するものと解するのが相当である。したがって,グループ長の役職に誰を選任するかは,被告には人事権の行使として,広範な裁量が認められる。

 そして,上記認定,判断のとおり,原告には本件労働契約においてグループ長として期待された能力がなかったということであるから,原告が指摘する時期の点を考慮しても,被告において,原告に能力がないものと判断してグループ長の役職から外すことは,人事権の行使の裁量の範囲内といえる。

 

 
3 未払残業代の存在について

 

 

4 管理監督者該当性について

 

「(1)労基法41条2号の趣旨は,管理監督者が労働条件の決定,その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者として,経営者に代わって他の労働者の労働時間等を決定し,労働時間に従った他の労働者の労務を管理監督する権限と責任を有しており,このような職責を果たすためには,管理監督の対象となる他の労働者とは異なり,自らは労働時間等に関する規制の枠にとらわれずに活動せざるを得ず,当該規制になじまないことから,労基法上の規制の対象外とする点にあるものと解される。したがって,同号の管理監督者に該当するか否かは,職務内容,職責の重要性,勤務態様,賃金等の待遇等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。

(2)本件では,グループ長が少額債権の回収を主たる業務とする被告において重要なシステムの開発等を行う部門の長であることや,原告自身が原告本人尋問において,被告から部下職員の採用権限や労務管理に関する権限について言及があったことを供述していることからすると,労務管理について経営者と一体的な立場にあった可能性は否定できない。もっとも,上記認定事実のとおり,本件労働契約上,原告は即戦力のプレイングマネージャーとしての役割を期待され,被告においてこれまで実現することができなかった本件システムのマイグレーションを担当することとなっており,これらの業務や上記労務管理を行うに当たって,被告から労働時間等に関する規制を解かれていたものと認めるに足りる適切な証拠はなく,かえって,上記認定判断のとおり,原告は一定の労働時間等に関する規制の下で勤務していたものと解される。さらに,原告が被告における他の従業員との比較において,賃金等の待遇面で優遇されていたとか,管理監督者としての役割を担っていたことを理由とする別待遇を受けていたとも認められない。むしろ,原告の賃金等の待遇については,グループ長への就任前後で何ら変化がない。

 以上の事情を総合考慮すると,原告が,原告が労基法41条2号の管理監督者に該当するものとはいえない。

 

 

 

【コメント】

法律事務所の労働案件の裁判数は多くありませんので、今回、ご紹介します。使用者に有利な裁判例ですので、参考にしていただければと思います。

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