15年6月:平成26年11月26日付け東京高裁判決:弁護士の労働法メルマガ

【2015年6月号サンプル】

弁護士田村裕一郎<多湖・岩田・田村法律事務所>です。

メルマガ6月号(2015年)を発行致します。

 

 

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☆目次☆

第1【使用者不利】固定残業代の最新判例<平成26年11月26日付け東京高裁判決>

第2【使用者有利】打切補償の支払による解雇の最新判例<平成27年6月8日付け最高裁判決>

 

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第1【使用者不利】固定残業代の最新判例

<平成26年11月26日付け東京高裁判決>

 

固定残業代について、より有効性を厳しく判断するようになったと思われる裁判例【使用者不利】を紹介します。

 

【問題となった、就業規則等】

賃金規程に、以下の記載があります。

「第3条 賃金は年俸制とし、その体系は次のとおりとします。

基本給

手当給

業績給

プロセス評価給

通勤手当

第4条 2.一般従業員の場合には、手当給は、時間外手当、深夜手当、休日出勤手当の総額を見込んだ額とします。」

 

さらに、従業員に交付した給与辞令には、以下の記載があります。

「基本本給 18万5000円

営業手当 12万5000円

(内訳)

時間外勤務手当 8万2000円

休日出勤手当 2万5000円

深夜勤務手当 1万8000円

通勤手当 3360円

総支給額 31万3360円

 

【1審と2審】

上記の賃金規程及び給与辞令を前提とした、割増賃金請求の本事案について、一審は、「営業手当」とされる12万5000円を割増賃金算定の基礎とせず、基本(本)給のみを基礎としたため、未払割増賃金は、1万4342円と算定されました。

一方、二審である本判決では、「営業手当」を基本(本)給とともに割増賃金算定の基礎としたため、未払割増賃金は、618万2500円と算定されました。

 

【問題の所在と、結論】

なぜこのような大きな違いが生じたのでしょうか。

 

問題の所在は、一審と二審の、「営業手当」の性格についての判断の違いにあります。

 

一審は、賃金規程等の文言どおり、「営業手当」を「時間外手当…の総額を見込んだ額」とし、割増賃金の支払として有効としました。

これに対し、二審は、

 

1「営業手当」の全額が時間外勤務の対価であるとすると約100時間の時間外労働に相当することになり、この長時間の時間外労働は36協定の趣旨に反すること、また、

本件賃金体系変更の前後の状況に照らしてみると、「営業手当」の全額が割増賃金としての性格を有するとは認められないこと

 

を理由に、営業手当は割増賃金の対価としての性格を有しないとしました。詳細は、別紙1のとおり、です(別紙を希望される方は、個別にメールをいただければ、秘書から、お送りします)。

 

【コメント】

高裁は上記のような賃金規程・給与辞令の記載があるにも関わらず、

 

36協定の趣旨に反するか否か、

「営業手当」が実質的に時間外勤務の対価に当たるか否かによって、その性格を判断したといえます。

 

固定残業代は、ますます、リスクの高い制度、になりそうです。特に、賃金体系を変更するときの経緯(具体的には、固定残業代を導入した時の経緯)が、判例上、厳しくチェックされますので、社労士先生や企業の人事担当者におかれては、

 

過去の固定残業代の導入経緯、及び

将来の固定残業代の導入経緯

 

が〔裁判所の考える判断基準〕に合致しているかを再確認する必要があると思います。当職としては、この〔裁判所の考える判断基準〕については、セミナー等にてお話できればと考えております。

 

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第2【使用者有利】打切補償の支払による解雇の最新判例

<平成27年6月8日付け最高裁第二小法廷判決>

 

打切補償の支払による解雇について、その有効性をより緩やかに判断するようになった裁判例【使用者有利】を紹介します。

 

【結論】

最高裁は、1審・2審と異なり、次の通り、判示しました。「労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、労働基準法75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に、使用者は、当該労働者につき、同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるものと解するのが相当である。」

「これを本件についてみると、上告人は、労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受けている被上告人が療養開始後3年を経過してもその疾病が治らないことから、平均賃金の1200日分相当額の支払をしたものであり、労働基準法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれる者に対して同法81条の規定による打切補償を行ったものとして、同法19条1項ただし書の規定により本件について同項本文の解雇制限の適用はなく、本件解雇は同項に違反するものではないというべきである。」

詳細は、別紙2のとおり、です(別紙を希望される方は、個別にメールをいただければ、秘書から、お送りします)。

 

【コメント】

当職は、過去のセミナーで、1審・2審(労働者有利の判断)をご紹介しつつ、裁判所の判断の不合理性(「何のために、使用者は労災保険に加入しているのか?」と。)を訴えてきました。当職からすると、最高裁の判断は妥当なものです。

但し、留意点としては、「打切補償を行えば、直ちに解雇できる」わけではない、という点です。打切補償を行ったとしても、解雇の有効性判断に際しては、「解雇権の濫用か?」(労働契約法16条)が問われることになります。

この留意点については、セミナー等でお話ししたいと考えています。

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