19年2月:甲社事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ(組合対策、労働訴訟、労働審判等)

今回のメルマガ【2019年2月号】目次

1 (労務×メーカー×秘密録音×解雇)

会社内での録音禁止命令への違反等を理由とする普通解雇が認められた例

(甲社事件、東京地判平成30年3月28日)

①会社内での録音禁止命令への違反等を理由とする普通解雇が認められた例

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【判例】

 

事件名:甲社事件

判決日:東京地判平成30年3月28日

 


【事案の概要】

本件において、甲社(被告)は、問題行動の多い労働者(原告)に対し、上司からの業務命令違反行為(録音・録画禁止の業務命令に対する拒絶)の疑いなどがあるとして、2度、弁明の機会を付与した。しかし、労働者(原告)は、自分の身を守るために録音は自分のタイミングで行うと述べたことなどを踏まえ、甲社は、譴責処分とした上、始末書の提出を命じた。しかし、労働者(原告)は、今後も録音機を使うなどと記載した始末書を提出したため、甲社は、普通解雇を行ったところ、労働者(原告)が当該普通解雇は無効であるとして提訴した事案である。

 


【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。)】<下線部は、当事務所が加筆>

 


1 録音禁止命令への違反について

 

「雇用者であり、かつ、本社及び東京工場の管理運営者である被告は、労働契約上の指揮命令権に基づき、被用者である原告に対し、職場の施設内での録音を禁止する権限があるというべきである。このことは、就業規則にこれに関する明文があるか否かによって左右されるものではない

また、原告は録音による職場環境の悪化について、具体的な立証がないなどと主張する。しかし、被用者が無断で職場での録音を行っているような状況であれば、他の従業員がそれを忌避して自由な発言ができなくなって職場環境が悪化したり、営業上の秘密が漏洩する危険が大きくなるのであって、職場での無断録音が実害を有することは明らかであるから、原告に対する録音禁止の指示は、十分に必要性の認められる正当なものであったというべきである。

さらに、原告は、被告において秘密管理がなされていなかったとして、録音を禁止する必要性がなかったなどと主張する。しかし、被告が秘密情報の持ち出しを放任しておらず、その漏洩を禁じていたことは明らかであり(就業規則(書証略)7条、人証略)、原告が主張するような一般的な措置を取っているか否かは、情報漏えいを防ぐために個別に録音の禁止を命じることの妨げになるものではないし、そもそも録音禁止の業務命令は、上記によれば、秘密漏洩の防止のみならず、職場環境の悪化を防ぎ、職場の秩序を維持するためにも必要であったと認められるのであって、原告の主張は、採用することができない。

 以上からすれば、原告は、被告の労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、上司から録音禁止の正当な命令が繰り返されたのに、これに従うことなく、懲戒手続が取られるまでに至ったにもかかわらず、懲戒手続においても自らの主張に固執し、譴責の懲戒処分を受けても何ら反省の意思を示さないばかりか、対象となった行為を以後も行う旨明言したものであって、会社の正当な指示を受け入れない姿勢が顕著で、将来の改善も見込めなかったといわざるを得ない。このことは、原告が本人尋問において、仮に復職が認められても、原告から見て身の危険があれば、録音機の使用を行うと表明していること(人証略)からも顕著である。」

 


2 結論

普通解雇:有効

 

(注記:労働者の問題行動などを総合考慮して、普通解雇有効と判断しています。スペースの関係上、秘密録音以外の論点については、割愛しています。)

 


【コメント】

本判決は、

   労働契約上の指揮命令権(及び施設管理権)に基づき、使用者に、職場の施設内での録音を禁止する権限があるということ、

   このことは、就業規則にこれに関する明文があるか否かによって左右されないこと、

   使用者が秘密情報の持ち出しを放任しておらず、その漏洩を禁じていればよく、秘密管理につき(労働者主張のような)一般的な措置を取っていなくとも、個別に録音の禁止を命じることの妨げになるものではないということ、

 

を判断したものです。使用者に有利な判断ですので紹介します。

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