1 労働契約法20条の不合理な労働条件の相違についての裁判例(正社員と契約社員の賃金格差が違法として、77万円の支払命令)
正社員と契約社員との労働条件(各種手当等)の相違が法20条のいう「不合理」なものと言えるかが争われ、各種手当のうち、一部の手当につき不合理といえる、とする裁判例がありますので、ご紹介します。
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【判例】
事件名:ハマキョウレックス事件
判決日:大阪高判平成28年7月26日
【事案の概要】
東証一部上場の物流会社「ハマキョウレックス」の契約社員の男性が、同じ労働にもかかわらず、正社員にだけ支給される手当があるのは不当であるとして、無事故手当・給食手当等の支払いを求めた。
※ハマキョウレックスの各種手当一覧<詳細は略>
契約社員 正社員
基本給 時給制 月給制
住宅手当 支給なし 2万円
皆勤手当 支給なし 該当者には1万円
家族手当 支給なし あり
無事故手当 支給なし 該当者には1万円
作業手当 支給なし 該当者には1万円
給食手当 支給なし 3500円
通勤手当 3000円 通勤距離に応じて支給
定期昇給 原則なし 原則あり
賞与 原則支給なし 原則支給あり
退職金 原則支給なし 原則支給あり
【結論】
***第一審の判決***
第一審は、「労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が,それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して,当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味する」と定義した。
そして、第一審は、被告は従業員約4500人を有する東証一部上場企業であり、正社員は業務上の必要性に応じて就業場所や業務内容の変更命令を受けなくてはならず、出向先も全国に及び、将来支店長等の責任者となる可能性を有している一方、契約社員は労働内容、労働時間、休息時間等の変更を受けるに留まるものである等と認定した。
その上で、「被告におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば,少なくとも無事故手当,作業手当,給食手当,住宅手当,皆勤手当及び家族手当……の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は,被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないというべきであるから,本件有期労働契約に基づく労働条件の定めが公序良俗に反するということはできないことはもとより,これが労働契約法20条に反するということもできない」と示した。
もっとも、通勤手当については、「被告において,通勤手当が交通費の実費の補填であることからすると,通勤手当に関し,正社員が5万円を限度として通勤距離に応じて支給される(2km以内は一律5000円)のに対し,契約社員には3000円を限度でしか支給されないとの労働条件の相違は,労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察すると,公序良俗に反するとまではいえないものの,被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものであり,労働契約法20条の「不合理と認められるもの」に当たるというべきである」と示し、第一審では、通勤手当の支払いのみ認められた。
***控訴審判決の結論***
大阪高裁は、「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「通勤手当」は「雇用期間を理由に正社員だけに支給することは不合理」と判断し、77万円の支払を命じた。
一方、「住宅手当」などは正社員には転勤があることなどを理由に認めなかった。
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【コメント】
一般論として、法20条の「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更範囲の異同(類似性)にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるをえないものを意味する(菅野和夫他『詳説 労働契約法〔第2版〕』(弘文堂)240頁以下)。または、不合理性判断については、1、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、2、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、3、その他の事情であり、不合理か否かの判断は、これらの要素を考慮して個々の労働条件ごとに判断される(黒田敏正『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法』(日本評論社)430頁以下)とされている。
本件の場合、第一審は、「労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が,それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して,当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味する」と示しており、上記一般論と同様の枠組みを踏襲している。
現時点(平成28年8月9日現在)では、控訴審の判決文が明らかになっていないため、裁判所がどのような判断枠組みをとったのか判然としない。もっとも、結論において、上述の4つの手当の待遇格差が高裁レベルで違法となったことは、実務上、大きな意味を持つ。
今後の実務上の対応策としては、「労働条件につき相違を設ける場合」、(「合理的である」といった説明なのか、「不合理ではない」といった説明なのか、は別にして)「理由の説明」ができるようにするだけでなく、それを裁判上も立証できるような準備をしておくことが望ましいといえよう(なお、当職は「不合理」の立証責任は、あくまでも、労働者側にあると考えている)。個別の労働条件ごとの対応については、セミナー等で情報発信していきたいと思う。