21年2月:名古屋自動車学校事件:使用者側弁護士の労働法メルマガ

今回のメルマガ【2021年2月号】目次

1 TIT メルマガ裁判例動画解説:No.62021年2月号

(労務×同一労働同一賃金×基本給×賞与×定年後再雇用)定年後再雇用者の基本給の減額について、定年直前の基本給の60%を下回るのは、労契法20条違反にあたると判断された例


2 TIT メルマガ裁判例動画解説:No.72021年2月号

(労務×バス会社×退職勧奨×パワーハラスメント×侮蔑的表現)

①退職勧奨及び②「チンピラ」「雑魚」という侮蔑的表現が不法行為とされた例


動画(無料)に、興味のある使用者側の方々は、⇊⇊⇊をご参照下さい。

1 基本給の減額について、定年直前の基本給の60%を下回るのは、労契法20条違反にあたるとされた例



【判例】

 

事件名:名古屋自動車学校事件

判決日:名古屋地判令和2年10月28日

 

 

【事案の概要】

被告の定年後再雇用者の基本給の減額が、労契法20条違反に該当するか、該当するとしても、何割を下回る金額が違法か、などが問題となった事案

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】

 

・基本給

 

一律給+功績給

 

・賞与

 

毎年,夏季(7月末)及び年末(12月末)の2回支給

算定方法:

各正職員の基本給×掛け率(各季で正職員一律)+当該正職員の勤務評定分(10段階)

 

 

1 基本給の減額について

 

「正職員定年退職時と嘱託職員時でその職務内容及び変更範囲には相違がなく,原告らの正職員定年退職時の賃金は,賃金センサス上の平均賃金を下回る水準であった中で,原告らの嘱託職員時の基本給は,それが労働契約に基づく労働の対償の中核であるにもかかわらず,正職員定年退職時の基本給を大きく下回るものとされており,」「若年正職員の基本給をも下回るばかりか,賃金の総額が正職員定年退職時の労働条件を適用した場合の60%をやや上回るかそれ以下にとどまる帰結をもたらしているものであって,このような帰結は,労使自治が反映された結果でもな」く、「労働者の生活保障の観点からも看過し難い水準に達している」

 「嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の基本給の60%を下回る限度で,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる」

 

 

2 賞与について

 

「正職員定年退職時と嘱託職員時でその職務内容及び変更範囲には相違がなかった一方,原告らの嘱託職員一時金は,正職員定年退職時の賞与を大幅に下回る結果,」「若年正職員の賞与をも下回るばかりか,賃金の総額が正職員定年退職時の労働条件を適用した場合の60%をやや上回るかそれ以下にとどまる帰結をもたらしているものであって,このような帰結は,労使自治が反映された結果でもな」く、「労働者の生活保障という観点からも看過し難い水準に達している」

 「原告らの基本給を正職員定年退職時の60%の金額(前記(4)において不合理であると判断した部分を補充したもの)であるとして,各季の正職員の賞与の調整率(前記前提事実(2)イ(イ)aないしl)を乗じた結果を下回る限度で,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる」

 

 

【結論】

裁判所は、被告(会社)に対し、合計約625万円の支払いを命じた。

 

【コメント】

 

定年の前後で、定年後再雇用者の仕事の内容や責任の重さ等を変更した場合、基本給や賞与の減額は、適法になりやすいです。他方、定年の前後で、仕事の内容や責任の重さ等が変わらない場合、基本給や賞与の減額は、違法になりやすいといえます。

 

今回、60%という基準が示された点は、画期的であるものの、使用者にとっては不利な裁判例ですので、企業としては、改めて、定年後再雇用者の仕事の内容や責任の重さなどを再考すべきです。



なお、本裁判例についての動画配信にご興味のある方(経営者、社労士先生など)は、

https://www.itm-asp.com/form/?3179

から、ご視聴下さい。

(配信期限は、2021年3月末(無料)です。期限経過後の視聴にご興味のある方は、rt@tamura-law.comまで、お問い合わせ下さい)




2 ①退職勧奨及び②「チンピラ」「雑魚」という侮蔑的表現が不法行為とされた例


【判例】

 

事件名:東武バス日光事件

判決日:宇都宮地判令和2年10月21日

 

 

【事案の概要】

被告東武バス日光株式会社(以下「被告会社」という。)の正社員であるバス運転手が,上司から退職強要や人格否定等のパワーハラスメントを受けたとして,上司らに対して共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告会社に対して使用者責任による損害賠償請求権に基づき,慰謝料200万円等の連帯支払を求めた。

 

 

【判旨(「」内は判旨の一部抜粋。下線部、①②などの数字、装飾等は引用者による。)】

 

認定された上司の発言

7月22日会議室

(原告、P3ら6人)

被告P3は,やり取りにおいて,原告に対し,「チンピラ」と発言

7月22日事務室

(原告、P4ら3人)

被告P4ら3人は,原告に対し,「もう二度とバスには乗せない。」,「もう終わりです。」という趣旨の発言

7月23日会議室

(原告、P3ら4人)

被告P3は,原告に対し,「うちの会社には向かねえよ,こんな会社って,見切りをつけて他の会社行けよ。」「書けよ。書けよ。」「退職願を。」「チンピラいらねえんだようちは。雑魚はいらねえんだよ。」などと発言

(約50分間に及ぶ)

7月23日事務室

(原告、P4ら3人)

被告P5は,原告に対し,「もう会社ではいらないんです。必要としてないんです。」「運転手できなかったら何か仕事ありますか?そんなムシのいい会社ないです。」「一身上の都合で円満にあれしたほうがよろしいんじゃないかと。」などと発言

(約1時間に及ぶ)

※ 被告P3は,被告会社の取締役運輸統括部長の地位にある原告の上司。

※ 被告P4,被告P5及び被告P6は,被告会社に勤務し,それぞれ助役の地位にあり,P8営業所でバスの運行管理をしており,いずれも原告の上司。

 

 

「2 争点1(発言ないし指示の有無及び違法性の有無)について」

 

「(1)」退職勧奨について

 

「退職勧奨については,その態様が,これに応じるか否かに関する労働者の自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱し,その自由な意思決定を困難とするものである場合には,労働者の自由な意思決定を侵害するものとして違法であり,不法行為を構成する」。

 

「本件についてみるに」「発言者は,いずれも原告の上司であるところ」,「発言内容」,「発言の態様」に照らすと,「原告を職場から排除する趣旨のもの」。

 

その上,「原告は,その後,傷病休暇を取得し,うつ状態と診断されるに至っている」。

 

以上を考慮すると、「原告の自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱し,その自由な意思決定を困難とするもの」であるから、「不法行為が成立する。」

 

「(2)」侮蔑的表現について

 

「侮蔑的表現が,職責,上司と労働者との関係,指導の必要性,指導の行われた際の具体的状況,当該指導における言辞の内容・態様,頻度等に照らして,社会通念上許容される業務上の指導を超えて,過重な心理的負担を与えたといえる場合には,違法なものとして不法行為に当たるというべきである。」

 

「本件表現のうち,上司である被告P3が原告自身を「チンピラ」「雑魚」と呼称した部分については,行動に対する指導との関連性が希薄で,発言内容そのものが原告を侮蔑するものであり,前記(1)で述べた発言の態様や,その後原告が傷病休暇を取得してうつ状態と診断されたこと等も併せて考慮すれば,社会通念上許容される業務上の指導を越えて,過重な心理的負担を与えたといえるから,違法なものとして不法行為に当たる。」

 

「(3)」 

・・・略・・・

 

【結論】

「したがって」「被告P3らは,原告に対し,共同不法行為に基づき,連帯して原告に生じた損害を賠償する責任を負う。」

 

 

【コメント】



なお、本裁判例についての動画配信にご興味のある方(経営者、社労士先生など)は、

https://www.itm-asp.com/form/?3179

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(配信期限は、2021年3月末(無料)です。期限経過後の視聴にご興味のある方は、rt@tamura-law.comまで、お問い合わせ下さい)


★本メルマガは、当事務所所属の弁護士の(使用者側からの)私見を示したものです。そのため、個別具体的な事実が異なれば、結論は異なります。そのため、個別案件については、事前に外部専門家(弁護士や社労士など)に相談して、当該専門家の助言に従って対応して下さい。  本メルマガの内容に基づいて行動した結果、何等かの損害・損失が発生したとしても、一切賠償等には応じかねますので、あらかじめご了承下さい。

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